学会発表(発表要旨):2004

メルボルン大都市圏の例に見る、オーストラリアのコミュニティ放送制度の建前と実態.

東北地理学会・2004年度春季学術大会(仙台市戦災復興記念館:2004.05.15.).



メルボルン大都市圏の例に見る、オーストラリアのコミュニティ放送制度の建前と実態

山田 晴通 (東京経済大学)
 オーストラリアは、日本のものとは大きく性格を異にする「コミュニティ放送(ラジオ)」が広く普及しており、全国公共放送や商業放送との差別化を図りながら社会の中で一定の役割を果たしている。オーストラリアのコミュニティ放送は、他の放送媒体によっては充分に汲み上げられないコミュニティのニーズに応える非営利放送として制度化されてきた経緯があり、各局はどのようなコミュニティのために活動するのかを公的に表明し、局のアイデンティティとしている。しかし、コミュニティ放送局の実態を個別に見ていくと、制度化の過程で建前とされた想定とはズレが生じている例も見受けられる。
 メルボルン大都市圏のコミュニティ放送局は、おもに開設時期の違いによって、三つのグループに整理される。1970年代後半に開設された先駆的なコミュニティ放送局には、多言語放送サービスや社会的少数派の見解を伝える回路として定着している3CRのような局もあれば、商業局に匹敵する出力を活かして広い支持を集めるのに成功している3RRRや3PBSなどの局もある。後者の場合、局の性格は当初に想定されたものとはズレが生じていると見ることも可能であろう。
 1990年代前後には、視覚障害者のための3RPHや、多言語放送の実験局だった3ZZを継承する形で成立した3ZZZなどが、公的支援体制を得て開局した。同じ頃には、大都市圏全体を対象とするのではなく、特定の郊外地域を対象とする、やや出力を抑えたコミュニティ放送が登場した。こうした郊外地域局は、地域コミュニティに基盤をおいた総合編成をとっており、建前と実態のズレは顕在化していないが、相当の比重を占める音楽番組をどう評価するかは難しいところである。
 2002年以降に開局した最も新しいグループは、5年以上の仮免許〜試験放送期間を経て本免許を与えられており、それぞれに明瞭なコミュニティ・アイデンティティをもつことが要求されていた。結局、大都市圏全域の免許を得たのは、先住民コミュニティ向けのAM局3KND、キリスト教会によるFM局3TSC、若者(学生)向けのFM局3SYNであった。また、本来、地域免許であったはずのメルボルン・シティの免許は、ゲイ/レズビアン・コミュニティの利害を代表するJOY-FMに与えられた。これは免許の分配方法としては現実的な対応とも考えられるが、同時に、ゲイ/レズビアンの声を、都心部に限定された存在として位置付けるものであったと解すこともできる。
 オーストラリア社会は、エスニシティをはじめ多様な文化を背景とした多数のコミュニティが多文化主義の理念の下で共存する社会である、という建前がある。ラジオについても、まず放送時間帯を確保し、さらに自前の放送局をもつことは、そのコミュニティが社会的に可視的/可聴的になることを意味している。メルボルン大都市圏の事例でも、限定された数の本免許が誰に(どのコミュニティに)与えられてきたのかを跡付けることで、オーストラリア社会において各コミュニティに与えられている政策上の優先順位があぶり出されていると判断される。
  


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