研究の道具箱:山田晴通

韓国の地方自治・行政区画制度について



 韓国の地方自治制度は、多くの点で日本の地方自治制度と類似しているが、相違点も少なくない。ここでは、行政区画に限って、用語の解説をしておく。



 「」、「特別市」、「広域市」は、中央政府の直轄下に置かれている地方自治の大きな単位であり、これらは同格の自治体として位置づけられている。

 「(ド)」は、朝鮮半島における古くからの地方区分の単位である。「道」は日本の都道府県にほぼ相当するものであるが、概して規模は「道」の方が大きい。「道」の範域は、「市」と「郡」から成っている。「市」と「郡」は「道」の管轄下に置かれる自治体である。
 古くは、<咸鏡道、平安道、黄海道、京畿道、江原道、忠清道、全羅道、慶尚道>をもって「朝鮮八道」といったが、現在の「道」の範域は、「朝鮮八道」の多くをそれぞれ二分する形で李朝(朝鮮時代)末期に整えられた区画が基礎となっている。しかし、1945年の南北分断や、1950年から1953年にかけての朝鮮戦争によって、南北の境界線に近い地域では、「道」の範域が変更されているし、1946年には済州島が全羅南道から分離されて済州道が創設された。また、現在の「特別市」や、「広域市」の前身である「直轄市」の制度ができてからは、これらの市域は「道」の範域から離れたものとして扱われるようになっている。
 現在、韓国には、京畿道、江原道、忠清北道、忠清南道、全羅北道、全羅南道、慶尚北道、慶尚南道、済州道の9道が設けられている。

 「特別市(トゥクピョルシ)」は、首都ソウルの自治体としての地位を、「道」並みに扱うことを示した呼称である。ソウルは、1946年に「特別自由市(トゥクピョルチャユシ)」として京畿道から分離され、さらに1949年には現在の「特別市」という呼称に落ちついた。「特別市」の範域は「区(自治区)」に分割されている。

 「広域市(クァンヨクシ)」は、主要都市について、その自治体としての地位を、「道」並みに扱うことを示した呼称である。1995年に地方自治制度の改革によって「広域市」という呼称ができるまでは、「直轄市(チッカルシ)」と称されていた。「直轄市」の範域は「区」に分割されていたが、「広域市」となってからは、「区(自治区)」と並んで「郡」を範域に含むことが認められるようになった。
 「広域市」は、日本の「政令指定都市」の制度に似ているが、行政が「道」からまったく独立してしまうことなど、相違点も多い。
 現在、韓国には、釜山広域市、大邱広域市、仁川広域市、光州広域市、大田広域市、蔚山広域市の6広域市が設けられている。



 「」、「」、「(自治区)」は、地方自治の小さな単位であり、それぞれ「道」、「特別市」、「広域市」などの下に位置づけられている。

 「(シ)」は、日本の市にほぼ相当し、いずれかの「道」の管轄下に置かれている自治体である。人口5万人が「市」への昇格の目安とされている。古くは「(プ:[地名等に続く場合は]ブ)」という呼称が用いられていたが、1949年からは「市」の呼称が用いられるようになった。
 「広域市」には至らないものの人口が50万人を超えるような大規模な「市」には、自治区でない「(行政区)」が置かれるようになっている。現在、水原市、城南市、安養市、富川市、高陽市、清州市、全州市、浦項市、馬山市の9市に「区(行政区)」がある。
 一方、1995年の地方自治制度の改革によって新たに「市」として認められるようになった「都農複合形態の市」の場合は、従来からの「市」とは異なり、「市」の範域の中に「邑」や「面」が含まれていることが多いので注意を要する。

 「(クン:[地名等に続く場合は]グン)」は、日本の郡にほぼ相当し、いずれかの「道」または「広域市」の管轄下に置かれている自治体である。韓国の「郡」は、単なる行政区画ではなく、農村部において最も身近な自治体であり、郡が自治体として存在せず、町村単位で自治体が機能している日本とは事情がかなり違う。

 「(ク:[地名等に続く場合は]グ)(自治区)」は、日本の(東京の)特別区にほぼ相当し、「特別市」または「広域市」の管轄下に置かれている自治体である。



 「(行政区)」は、「広域市」には至らない大規模な「市」に置かれる行政区画である。「」、「」、「」も、自治の単位ではなく、行政区画であり、それぞれ「市」、「郡」、「区(自治区/行政区)」の下に位置づけられる。同様に「」は、「邑」、「面」の下に置かれる行政区画である。

 「(ウプ)」は、日本の自治体としての町にほぼ相当し、いずれかの「郡」、または「都農複合形態の市」の下に置かれる行政区画である。原則として、人口2万人以上が「邑」を置く条件とされているが、それに至らなくても、郡事務所の所在地である場合や、「都農複合形態の市」で市内に「邑」が一つもない場合には、「邑」への昇格が認められることとされている。

 「(ミョン)」は、日本の自治体としての村にほぼ相当し、いずれかの「郡」、または「都農複合形態の市」の下に置かれる行政区画である。

 「(トン:[地名等に続く場合は]ドン)」は、日本の町丁に相当し、「特別市」や「広域市」の「区(自治区)」、または「市」の下に置かれる行政区画である。なお、日本でも戸籍の本籍地表示と住居表示に食い違いが生じている場合があるように、韓国でも、都市部では、戸籍と住居表示が異なる場合がある。こうした場合、もっぱら前者にもちいる「洞」を「法定洞」、後者に用いるものを「行政洞」と称して区別する。

 「(ニ)」は、自然の村落を基準にする行政区画の最小単位で、日本の大字〜字に相当し、「邑」、「面」の下に置かれる行政区画である。



 以上をまとめると、次の表のようになる。

自 治 体行政区画
特別市区(自治区)
広域市区(自治区)
邑・面
人口50万人以上の市区(行政区)
通常の市
都農複合形態の市洞・邑・面
邑・面


(1998.05.24.掲出...なお、以上でいう「現在」とは、1998年1月1日現在のことである。)



 韓国の行政区域体系については、次の文献(およびその文献リストからたどれる文献)が参考になります。
(1999.10.16.追記/2001.09.26.修正)

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